コイノヨカン
**SIDE 渉**

俺のなかで、栞奈への想いが消えたわけではない。

今だって変わらず好きだし、できることならずっと一緒にいたかった。
しかし、一緒にいることで彼女を傷つけるんだってことに気づいてしまった。


じいさんが倒れたと聞き駆けつけた病院。
たまたま一緒にいて、心配した栞奈はついてきてくれた。
その時の俺は、一刻も早くじいさんの元へ行かなければの思いが先に立って、状況判断が鈍っていた。

病院の待合に入り、集まった関係者を見た瞬間栞奈を連れてきたことを後悔した。
一瞬にして表情を強ばらせ、泣きそうな顔になった栞奈。
俺はその前に立ち視線を遮ってやることしかできなかった。

それでも、「病状説明をしますが」と声がかかれば行くしかない。
俺は松田の家の跡取りなんだから。

医師について病室へ入ろうとした時、エレベーターに向かう栞奈の背中が目に入った。
追いかけるように動いた大地が、目配せする。
『送っていくから』という意味だろう。


病室に入り、医師の病状説明。
しかし、俺の耳には全く入ってこない。

ダメだ。
もう限界だ。

「すみません、5分だけ待ってください」

俺は、病室を飛び出してしまった。
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