コイノヨカン
「栞奈」

階段で1階まで駆け下り、声をかけた。

「渉さん」
振り向いたその目には涙が溢れていた。

「すまない。送ってやれないけれど、また連絡するから」
俺にはそんな言葉しか、かけてやることができなかった。

それなのに、
「ごめんなさい」
俺に向かって謝る栞奈。

何を言っているんだ、謝るのは俺の方なのに。

「渉、戻りなさい。皆さんお待ちなのよ」
追ってきた母さんの声。

できることなら、このまま栞奈と逃出してしまいたい。
でも、俺にはできないんだ。

「渉さん、私はいいから戻って」
「しかし・・・」

結局、俺は栞奈の手を離した。
< 197 / 236 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop