コイノヨカン
「ねえ渉、私はあなたにも栞奈さんにも幸せになってほしいのよ」

病室へ戻る途中、母さんが話しかけてきた。

「ああ」
分かっている。

「これからもずっと、こんなことが続くわ」
「うん」

「離れの空き巣だって、今日きている人の誰か仕組んだことかもしれない」

そういえば、金目のものは残っている以上怨恨ではないかって警察の見解だった。

「それを承知で、あなたは栞奈さんを幸せにするって言える?」
「それは・・・」

「向こうのご両親が反対なさる気持ち、私にはわかるわ」
「母さん」

「もう1度、きちんと考えてみなさい」

普段はあまり説教じみたことを言う人ではないは母さんの言葉が、俺には染みた。

その日からしばらく、栞奈との連絡が途絶えてしまった。

じいさんの入院は公のものとなり、俺は本社に異動するしかなくなった。
栞奈も体調を崩して休暇を取った後、退職届を出したと聞いた。

結局、俺は栞奈を守ってやることはできなかった。
これ以上側にいれば、彼女を苦しめるだけ。
そのことを痛感した。
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