コイノヨカン
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久しぶりに男の人と外出した。

お見合いの相手は30歳の公務員。
穏やかでまじめそうな人。
何をするにもまずは私の気持ちを尋ねてくれるし、映画館のチケット売り場の人にまで「ありがとうございます」と言ってしまうような人。
素敵だなあと思いながら、どの場面でも渉さんを思い出してしまう私がいた。

ごめんなさい。
心の中で何度も繰り返した。

映画を見て食事をし、駅まで送ってもらった。



1人になった家までの帰り道。

フフフ。
私は思い出し笑いをしてしまった。

だって、私はホテルで渉さんの幻を見た。
遠くの方に2,3度渉さんの姿が見えた気がした。
忙しいはずの渉さんが、1人でウロウロなんてしているはずがないのに。
幻覚が見えるなんて、かなりヤバイ。重症だわ。

ピコン。
健さんからのメール。

『お見合いどうだった?』

そうだ、健さんには話してしまったんだ。

『優しそうな人でした』

『そう。渉には会えた?』

え?

『お見合いのこと渉に知らせたから、行ったんじゃないかと思うけれど・・・会えた?』

嘘。
じゃあ、あれは本当に渉さんだったの?
でも、どうして?
私達は終わったはずなのに・・・


「はあー」
一息ついて、玄関の前。

入れば、「今日どうだった」と聞かれるだろう。
「楽しかった」と笑って答えないと。
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