コイノヨカン
「本当に良かったの?」

空港まで来て搭乗手続きも終わったところで思わず聞いてしまった。

ここしばらくは帰りも遅かったし、お休みだってまともに取れていない。
渉はこの連休のために随分無理をしたんじゃないだろうか?

「なんで?栞奈は行きたくなかったのか?」

「そんなこと・・・」

別に行きたくないわけではない。
渉と旅行なんて初めてだし、結婚したからには2人で過ごしたいとも思う。
でも、それ以上に渉の体が心配。

「栞奈は俺と旅行に行きたくないのか?」
「違っ」
とっさに反論しようとしたのに、

ムギュッ。
横から顔を覗き込んだ渉が、私の鼻をつまんだ。

「栞奈は聞き分けが良すぎるんだ。我慢ばっかりしていると、いつか破裂するぞ」

そんな・・・
我慢ばかりしているつもりはない。
そりゃあ、少しはしているけれど。

本当はもう少し一緒にいたいし、話す時間も欲しいなとも思う。
でも、渉がどれだけ頑張っているかを知っているから口には出せない。

「栞奈、もっとわがままになれ。お前のわがままくらい俺がちゃんと受け止めてやるから」

「渉・・・とりあえず、手を放してもらえる?」

どれだけ感動的なことを言われても、空港のラウンジで鼻をつままれたままでは恥ずかしくてたまらない。
実際、さっきから周囲の視線が痛いし。

「わかった、そのかわり」

一旦手を放した渉は、私の右手に自分の左手を重ねた。

え?

「これ、必要?私逃げたりしないし、迷子にもならないんだけれど」

今、手をつなぐ必要性を感じない。

「俺が栞奈に触れていたい、それではダメか?」

「いや・・・そんな恥ずかしいことを真顔で言われても、」
困ってしまう。
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