コイノヨカン
「ずっとと言うつもりはないよ。半年間だけ。そうすれば栞奈さんも蓄えができるだろうし。悪い話ではないでしょう?」

うーん。
いい話しすぎる。

「まだダメ?じゃあ、もう一つ仕事を加えましょうか。実は私にはもう1人孫がいるのよ。その子と週に1度遊んでやって欲しいの。公園でもどこでもいいから連れ出してやってくれない?それも込みで、どうか半年間離れに住んで下さい」
楓さんはテーブルに手をついた。

「やめてください」

年配の人に頭を下げられては断れなくなる。

そもそも、希未さんの家庭教師が週3時間。
もう1人のお孫さんの相手が同じくらいかかるとして、家賃光熱費の対価としては不自然ではない。
それに、私が困っているのも事実だし。

「承知してくれるわね?」

私は頷いた。

しかし、お世話になるにあたっていくつかのお願いをした。

希未さんの家庭教師ともう1人のお孫さんの遊び相手の報酬として、離れに住まわせてもらう。
水道光熱費はお世話になるが、それ以外は自分で自炊をさせてもらう。
あくまでも、離れを貸していただくだけ。
そこを強調した。

「分かったわ。栞奈さんがそうしたいならそれでいい」

楓さんも納得してくれた。

ああ、よかった。
これで住むところの心配がなくなった。
私は、内心ホッとした。
その時、

トントン。
ドアをノックする音。

「どうぞ」

楓さんの返事の後ドアが開く。

「帰りました」
それはどこかで聞いたことのある声。

そこに現れたのは、
いかにもしたての良さそうなスーツのボタンを全開にし、ネクタイはほぼぶら下がっているだけ、疲れ果てた様子の男性。
それも、見覚えのある顔。

「えええええっ」
私は叫んでしまった。
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