コイノヨカン
「健さんよ」

誰だって聞いてくる視線を感じて、電話を持ったまま答えた。

「ふーん」

不満そうな顔で返事だけすると、

「あぁっ」

渉は躊躇なく私の手から携帯を奪った。


「何の用だ?」
挨拶もなく、携帯に向かって低い声で尋ねる渉。

ああ、ああ、また不機嫌大魔王が降臨している。


しばらく、渉と健さんが電話で話していた。

時々相槌は打っていたから喧嘩はしていないと思うけれど、渉の顔は笑っていない。
健さんとは過去の因縁も少なからずあるから、渉が気にするのも仕方がない。
でも、今は仕事のパートナーなんだからもう少し愛想よくすればいいのに。


「ほら、行くぞ」

ちょうど搭乗が始まり、私は渉と手をつないだまま機内へと向かった。
< 220 / 236 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop