コイノヨカン
「うるさい」
不機嫌そうな男性が注意する。

だって、だって・・・

今私の目の前にいる男性。
彼は、私の上司。
松田専務。

松田?

「私の孫よ」

「はあああ?」

「うるさいよ」
冷静な松田専務。

これって、驚くなと言う方が無理でしょう。
何で、何で・・・

「栞奈さん。あなたが渉の秘書だとは今日知ったの。嘘じゃないのよ。たまたまなの」

たまたまって言われても、簡単には信じられない。
偶然にしては話ができすぎている。

「楓さん、いえ、松田会長夫人。それとも大奥様と呼ぶべきでしょうか?」

「やめてちょうだい。栞奈さんには楓と呼んでもらいたいわ」

「では楓さん。申し訳ありませんが、さっきの話はなかったことにしてください。私、今夜このまま出て行きます」

「栞奈さん」

楓さんの表情が曇る。

いくらそんな顔をされても気持ちは変わらない。
何の警戒心も持たず、美味しい話に乗ったのは私の責任。
無警戒だったし、油断しすぎだったと思う。
でも、これはやり方が汚い。
< 23 / 236 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop