コイノヨカン
「お姉ちゃん、俺たちはこいつに話があるんだ。どいてもらえないか?」
近づいてくるいかにもやくざ風の男。

もちろん、私もかかわるつもりはない。
私はこの場を離れるため、一歩踏み出そうとした。
しかし、私の背中に回り込んだ男性が離れてくれる様子がない。

「オイ、あんちゃん。命が惜しければ素直に出て来い」
どすの利いた声で脅す男。

「だから、誤解なんですよ」
男性が背中越しに言い訳するけれど、

「いいからこっちにこい。これ以上待たせるとボコボコにするぞ」
男が声を荒げる。

けれどきっと、素直に出て行ってもボコボコにされるだろう。
この状況で男性に逃げ場はない気がする。

「お前、いい加減にしろよっ」

しびれを切らした男が男性に向かって私に近づく。
その手のひらはギュッと拳が握られている。

「お姉ちゃん、ケガしたくなきゃどきな」

そりゃあ私だってどきたいけれど・・・
この状況では男性の身が危ない。

スーっと、男性を捕まえようとする男の腕が私の髪をかすめた。
その瞬間、反射的に、持っていたバックで男の顔をたたきヒールのかかとで脛に蹴りを入れてしまった。

「うぅー」
予想外の攻撃に不意を突かれ、地面にうずくまる男。

そういえば、昔護身術を習ったんだった。
すっかり忘れていたけれど、私の体が覚えていたらしい。

その時、

「はい、警察です。皆さんその場を動かないでください」

どうしよう、この状況はすごくマズイ。
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