コイノヨカン
「大体の事情は分かりました」

パトカーで警察に連れていかれ、それぞれから事情を聴いた警官が不思議そうな顔で私を見た。

「発端は店の女の子にちょっかいを出した彼にあるようですし」
そういいながら私がかばってしまった男性を見る警官。

「俺はちょっかいなんて出してない、ただ声をかけただけで」

「嫌がる相手に何度もしつこく言い寄ればそれは迷惑行為なんだよ」
ピシャリといわれ男性は黙った。

「複数の人間で一人を取り囲めば、脅迫にもなりかねない」

確かに、やくざ風の人に囲まれれば怖いもの。

「ただ、今回実害を与えたのはあなただけでしてね」

え?
私?

あまりにも意外な言葉に口が開いた。

「あなた、あいつを叩いて蹴ったんですよね?」
「ええ、でも」

それは私を守るためで、

「あいつがあなたを襲ってきたんですか?」
「いや、それは・・・」

厳密には私の背中に隠れた男性に手を伸ばしただけ。
私に危害は加えていないし、私に向かってきたわけでもない。

「文章に起こそうとすれば、『あなたが暴行を加えた』もしくは『あなたの過剰防衛』ってことになりかねないんです」
「そんな・・・」

私は巻き込まれただけなのに。

「まあ、相手もことを大きくする気はないと思いますので、手続きが終わってどなたか引き取りにおいでになるまでお待ちください」

え、
「引き取りって・・・」

こんな遠くまで父さんや母さんが来れるわけないし、北海道に知人なんていない。

「先ほどご主人と連絡がつきましたので」
「えええー」
絶叫してしまった。

マズイ、マズイ、すごくマズイ。

「とにかくもうしばらくお待ちください」
警官は私を不思議そうに見ながら部屋を出て行った。
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