コイノヨカン
こんなところに、渉を来させるわけにはいかないのに。
私は一体何をしているんだ。

松田コンツェルンの副社長夫人が暴行で捕まったなんてネットニュースになってもおかしくない。
本当にマズイ。

そもそも私が暴行で捕まったら、渉だけではなく教師をしている両親にも迷惑をかけるかもしれない。
まさか自分が犯罪者になるなんて・・・

いざとなったら、松田の家を出て実家にも頼らずに一人で暮らそう。
大したことはできないけれど、英会話教室の講師くらいならできるから何とか食べてはいけると思うし。

でも、お母さまや楓さんは失望するだろうなあ。
あんなにかわいがってもらったのに・・・


「栞奈」
ドアが開き、聞きなれた声が私の名前を呼ぶ。

私は顔を上げることもできずその場に立った。

「こんな遠くまで来てやくざ相手に暴行とは大したもんだな」
皮肉混じりに言われても、私は何も答えられない。

「たった2時間だぞ。たった2時間目を放しただけでこれかよ」

「ごめんなさい」

「なんでおとなしくしていられないんだっ」
苛立たし気に吐き捨てられた言葉。

もう、『ごめんなさい』さえ口から出ない。
私は、自分が悪いんだから絶対に泣かないと唇をかみしめた。
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