コイノヨカン
「何かお探しの物がありますか?」

綺麗な店員さんに聞かれ、

「素敵な物がありすぎて、目移りします。少し見て回りますから」

もう2度と来ることのないだろう店で、目の保養。
私にはそのくらいがちょうどいい。

ん?

一通り店内を周り、「さあどうしよう何も買わないわけにはいかないなあ」と思ったとき、窓際にディスプレイされていたハイヒールが目に入った。

真っ赤なピンヒール。

私には無理だけれど、こんな靴をかっこよく履きこなす人になりたい。

「よかったら試着してください」

頼みもしないのに、近くのスツールの前に置かれた。

「ごめんなさい。見るだけですから」
申し訳ないと思いながら通り過ぎる。


「あの、そこの棚にあるスマフォケースを見せてください」

実は、ここのブランドのスマフォケースを大学時代の友人が持っていた。
いつも素敵だなあって羨ましかった。

「こちらですか?」

「はい。ずっと欲しかったんです。このピンクをください」

「ありがとうございます」

「自分で払いますので。現金でお願いします」

「はあ、よろしいんですか?」
チラチラと専務を見ている。

「いいんです。自分の物は自分で買います」

専務は何も言わなかった。

支払いは20000円。
私には大金だけど、いい記念だし大事にしよう。
結局スマフォケースだけを買って、店を出た。
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