コイノヨカン
プラネタリウムの余韻を楽しみながら街を歩き、夕食は大衆居酒屋にした。

「もっといい店もあるけれど?」
と専務は言ってくれたけれど、私はここの方が落ち着く。

「ビール飲む?」

「いいえ。専務こそ、飲んでください。私運転しますから」

はあぁ。
聞こえてきた専務の溜息。

「Can you say that again?」

は?

「ですから、私が運転しますので、専、いえ、渉さんは飲んでください」

「はい。良くできました」

あー、面倒くさい。

「車は置いて帰るから、2人で飲もう」

「はい」

専務はビール、私はチューハイ。
適当につまみも注文して、食事は楽しく進んだ。


「栞奈はプラネタリウムって初めてじゃなかったの?」

「ええ。子供の頃、夏休みになると父と行きました。もちろん今日みたいな最新式ではなくて、一昔前の映画館みたいな席で、隣同士がくっついていましたけれど」

プラネタリウムを出ると近くの喫茶店に寄って、ご飯を食べながら星や神話の話をしてくれた。

「お父さんに、居候のこと話した?」

唐突に聞かれ

「まさか、バレたら実家に連れて帰られます」

へえぇと、不思議そうな顔。

「父、母の再婚相手なんです。だからかな、強く言われると反抗できないんです」

「へー」

「だからって、やかましいわけではないんです。どちらかというと甘くて、何でも言うことをきいてくれるんですけれど、どうしてもダメって言われると、逆らえなくて」

「居候してるなんてバレたら、怒られる?」

「怒られるって言うより、悲しむと思います」

父は、自分が守ってやれなかったって思ったり、何で言ってくれなかったんだろうって考えると思う。
そして、私は実家に連れて帰られるだろう。

「悲しむねえ」

なんだかよく分からないって顔の専務。
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