コイノヨカン
ザワザワ。
キャーキャー。

日曜日のデパートはやはり混んでいた。

本当にいいんですかと聞こうとして、やめた。
そんなことを口にすれば、専務の機嫌は悪くなるばかりだろうから。

5階。
子供用品と婦人服の売り場。

その中に入っているいくつかのショップが私のお気に入り。
もちろん物によっては価格重視で、平場のワゴンセールを物色することもある。

「ここに入りますね」
「ああ」

「いらっしゃいませ」
「こんにちは」

「お久しぶりです」
店員は私を覚えていた。

「ええ。夏物を見に来たんですが」

「でしたら・・・」
店の商品から服をチョイスする店員。

さすが、私の好みがよく分かっている。
でも、

「実は、春から社会人になったんです。もう少し落ち着いた感じのはありますか?」

「通勤用ですか?」

「いいえ。仕事はスーツなんで、普段着と外出用に」

「そうですねえ、彼氏さんに会わせるとなるとかなり大人っぽくなりますが」

えっ、彼氏?
店員の視線は専務に向かっている。

「いえ、彼氏ではないので。この人のことは気にしないでください」

「そうですか。では」

改めて数店の服をチョイスしてもらい、スカート、パンツ、ブラウス、サマーニット。
何通りもの着回しがきくように、コーディネイトしてもらった。



「ありがとうございました」
大きな紙袋をかかえ、頭を下げられて店を出る。

「すみません。お待たせしました」
「いいよ。彼氏じゃないから」

はあ?

「気にしてます?」
「別に」

やっぱり、気にしてるじゃない。
たとえ契約でも交際している以上は『彼氏です』って言わないといけなかったんだろうか?

「で、次はどこ?」

「ああ、スーツを見たいんです。会社で着るスーツがないので」
「分かった」
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