コイノヨカン
向かったのは、デパートの一番奥にある店。
何度かお世話になったことのあるスーツの専門店。

「いらっしゃいませ」

「こんにちは。仕事用のスーツが欲しいんですが」

さすがに過去2度程しか来たことないの店では顔を覚えられているはずもなく、私は色やデザインのリクエストをしてスーツを選んでいった。


「こちらなどいかがでしょうか?」

数点のスーツが並び、1つずつ鏡の前で会わせていく。

「これが好きです」

中でも一番シンプルで、スリムなデザインのスーツ。

「着てみられますか?」

「はい。あの、いいですか?」

待ってくれている専務を見た。

「いいよ」

私は店の奥の試着室へと消えた



試着したスーツは思った通り素敵だった。

「じゃあ、これをお願いします」

袖丈やスカートの丈などいくつかの直しが入り、数日後に受け取る約束をして支払いを済ませた。


「すみません。お待たせしました」
「うん」

ショップの中に用意されたカウンターでペラペラと雑誌をめくっている専務。
似合わないわあ。



ショップを出て混雑するデパートを歩く。

その時、目の前にいた小さな男の子の2人連れが、お菓子の取り合いを始めてしまった。

「離せよっ」
「やめろよ」

お兄ちゃんの持っているポップコーンを弟君が奪おうとしている。

あれ?
お母さんはどこかな?
周りを見るが見当たらない。

「やめろって言ってるだろっ」

ポコン。
とうとうお兄ちゃんが手を出した。

「わーーん」
泣き出す弟君。

マズイな。
そう思った瞬間、

「お兄ちゃんのバカッ」
叫んだ弟君は、ポップコーンを奪い放り投げてしまった。
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