コイノヨカン
あああー。

ちょうど子供達の後ろにいた専務に、投げられたポップコーンが降りかかる。
子供達はもちろん、周囲の人達の動きが止った。


「すみませーん」
遠くの方から駆けてくるお母さん。

見ると、専務のジャケットはポップコーンのキャラメルソースがべったりついている。


「申し訳ありません」
お母さんが謝るけれど、

「いえ、大丈夫です」

無表情で言われても、怖いだけ。

「もー、何であなたは弟を泣かせるのよ」
今度はお兄ちゃんに怒り出す。

いつのまにかデパートの清掃員も登場して、人集りができはじめた。

悔しそうに涙をこらえるお兄ちゃん。

「本当にすみません」

お母さんに頭を押さえられ、お兄ちゃんも頭を下げる。

「いいんです。それにポップコーンを投げたのはこの子ではありません。兄弟げんかの結果でしょうけれど、彼は随分我慢していましたから」

「はあ」
不思議そうなお母さん。

すると、専務は腰をかがめ、

「ねえ僕、いくら腹が立っても手を出したらダメだよ。手を出したらその時点で君が悪くなってしまうからね」

「はい。ごめんなさい」
お兄ちゃんは自ら謝った。

「よし。もういいよ」

頭をなでて、専務は立ち去る。
私も慌てて後を追った。

意外だな。
子供の扱いがうまい。

「今日は暑いから、ジャケットなくてもいいよな」
「そうですね」

ジャケットを脱ぎ、Tシャツにパンツのラフな格好になった専務。
なんだか若いなあ。

「あの、渉さんっていくつなんですか?」

「はあ?歳?」
「はい」

「28だけど。知らなかったの?」
「はい」

「どれだけ興味ないんだよ」
などとブツブツ言っている。

5つ上かぁ、いかにもお兄さんって感じだわ。
< 56 / 236 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop