コイノヨカン
ライブは盛り上がった。
お客さんのほとんどが10代の若い子達でちょっと浮いた感じもあったけれど、楽しかった。

「この後どうする?」

ライブハウスを出たのは午後9時。

「あんまり遅くなると、奥様が心配します」

「母さんかあ」
じゃあ仕方ないなって表情。

「でも、1杯だけ飲みますか?」
なぜか私が誘ってしまった。

「そうだな」

ライブの余韻を引きずりながら、私達は先日のバーへ行くことにした。



「いらっしゃいませ」
「こんばんは」

マスターは変わらず迎えてくれる。

「俺は水割り」
「私は、何かオススメのカクテルを」

「かしこまりました」

この前来たときは酔っ払っていて分からなかったけれど、雰囲気のいい店。
いかにも大人って感じで、専務によく似合う。

「で、あいつは本当に弟なの?」

「はあ?疑っていたんですか?」

「まあな。姉弟にしてはちょっとよそよそしいし、仲が良すぎるのも変だしな」

うっ、さすがよく見てる。

「実は、旺は父さんの連れ子なんです」


私が11歳、旺が6歳の時に、両親は再婚した。
お陰で私と旺はある日突然姉弟になってしまった。
でも、イヤだったわけではない。
小さな旺は本当にかわいかったし、いつも「お姉ちゃーん」と私の後をついて回った。
とってもとっても仲のいい姉弟。
10数年経った今も変わらない。

「最初、何を言われたんだ?」
「え?」

「ほら、ライブハウスで。何か耳打ちされて悲しそうな顔をしてたじゃないか」

ああ。

「母さんが泣いてたぞって、言われたんです。姉さんが帰るのを楽しみに、好物を用意して待っていたのにって」
思い出すと胸が痛くなる。

「バカな娘だ」

うん。知ってる。
自分が一番分かっている。
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