コイノヨカン
きっかけは、ばあさんが援助しているこども園に大学生のボランティアがいると聞かされたところから始まる。

「お金がある様子でもないのに無償でボランティアを一生懸命やっていて、優しくて気立てのいい子だ」と、ばあさんはご機嫌で話した。

そんなこと言ったって、今時の大学生なんて裏で何しているかわかったものじゃありませんよと俺がいくら言ってもばあさんはその子をすっかり気に入っているようだった。

それでも俺には関係ないことと思ったし、その女性のアパートが火事になり「今晩はうちの離れに泊めるから」と聞かされても全く気にしていなかった。

しかし、女性が家に泊った翌日、俺はじいさんの入院する病院へ呼ばれた。

じいさんは心臓が悪く半年ほど都内の病院へ入院している。
高齢でもあり、次に発作が起きればどうなるかわからない。
会社の人事のこともあり入院は一部の上層部のみしか知らないことになってはいるが、次の株主総会にはじいさんが引退して新しい体勢を作るしかない。そのことは俺にも分かっている。

「渉、そろそろ本社に帰ってこい」
いきなりじいさんに言われ、

「今はまだやり残した仕事があるから、もう少し待ってください」
と、いつものように答えた。

じいさんが引退するとなれば、引き継ぐ人間が必要になる。
当然俺の名前もその中には挙がってくるだろう。
しかし、年齢的にも、実績的にも、逆風はかなりある。
直系であるが故に、それ以上の実績を見せつけなければなめられてしまう。
だからこそ、俺は今の職場で結果を残したい。
あと半年もらえれば、きっと周囲を黙らせるだけの成果が出せる。
だから、

「なあ渉。わしはお前をかっているが、後継者は血族がすべてだとも思っていない」

「どういう意味ですか?」

「お前が後継者とは限らないって意味だ」

「はあ?じゃあ、俺は今まで何のために頑張ってきたんですか?」

「それはお前の勝手だ」

俺は立ち上がり、寝ているじいさんにつかみかかりそうになった。

「渉、そこがあなたの悪いところよ」
同席していたばあさんが、冷たい視線を送る。
< 73 / 236 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop