コイノヨカン
分かっている。
この短気な性格が俺の弱点。
これまで何度も失敗してきた。
しかし、

「今はまだ手が離せないんです。あと半年、待って下さい。きっと結果を出して、誰にも文句を言わせない後継者となりますから」

俺はじいさんに向かって頭を下げた。

「渉の気持ちもわからないではないけれど、あなたの希望ばかり聞くのは不公平でしょ?」

「じゃあ、」
どうすればいいんですかと、ばあさんを見た。

「1つ条件を出しましょう。昨日うちに泊った女性がいたでしょ?」

「ええ」
ばあさんがお気に入りの女性。

「彼女と付き合ってみなさい」

「はああ?」

「彼女と交際している間は、異動の話しは止めておいてあげるわ」

一瞬、ばあさんがぼけたのかと思ったが、表情は真剣なまま。
どうやら本気らしい。

「何で彼女なんですか?」

「一言で言えば、私とおじいさんの眼鏡にかなったってこと。お前も付き合ってみれば分かるはずよ」

じいさんは1代で松田財閥を作った人。
ばあさんはそれを支え続けた人。
それだけ人を見る目はあるんだと思う。
でもなあ、

「もし、この話が外に漏れて彼女が他の男と結婚する事になれば、わしはその男に会社を譲るかもしれんからな。血縁はお前だけではない。外戚はたくさんおる」

「そんなバカな・・・」
俺は始めてじいさんを殴りそうになった。

「わしとばあさんは、それだけその娘のことをかっておる。つまらん奴に渡して潰されるくらいなら、彼女に託したいと思えるほどにな」

「意味がわかりません」

50年以上かけてここまで育てた松田財閥を、じいさんは潰してもいいと思っているのか?
俺は、イヤだ。
潰させないし、誰にも渡さない。

「お二人の気持ちはわかりました。でも、彼女の気持ちはどうなるんですか?」

彼女にだって選ぶ権利はあるはずだ。

「いいか、渉。お前は松田グループを手にしたいと思っておるんじゃろう?何万人もの人間を相手にしようとしているお前が、たった1人の心も摑めんでは話しにならんじゃろう」

うっ。
俺は言い返せなかった。

この後になって、彼女が俺の秘書だったと知らされた。
でももう、逃げ道はなかった。
じいさんの言う通り半年間だけ付き合ってみようと決心した。
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