コイノヨカン
消防や警察の検分が終わり野次馬達の数も少なくなった頃、やっと住むところを無くした実感がわいてきた。

今夜、どうしよう・・・

「栞奈さん」
聞き覚えのある声が私を呼ぶ。

「あぁ、楓さん」

まだいてくださったことに驚いた。
ここに来てからすでに4時間以上がたっている。

「今夜、泊るあてがあるの?」

泊るあて・・・無い。
でも、何とかしないと。明日も仕事なんだから。

「よかったら家に来ない?」

「楓さんのお家に?」

着ている服も持ち物も高そうなものだなといつも思っていた。
それに、今日送ってもらった車も運転手さん付の高級車。
きっといいところの奥様なんだろうけれど・・・

「家と言っても離れがあるから、そこを使うといいわ」

離れって・・・お金持ちな響き。

「それとも、こんな怪しげなおばあさんにはついて行けないかしら?」

「そんな・・・」
こういう言い方をされると断りづらい。

後から考えれば、警戒心がなさ過ぎだったと思う。
でも、楓さんはいい人そうだし、私自身も本当に困っていた。

その後しばらく説得された私は、楓さんの家でお世話になることにした。
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