コイノヨカン
それから数日は、本当に嵐のようだった。

重役達はもとより、課長以上の職員は総出で走り回っていた。
専務も休むことなく、会議や打ち合わせに追われ疲れ切っている様子。
しかし、その甲斐があって商品の手配は間に合った。
発注した商品は消えたままだが、他から調達できたと聞いた。

普段は俺様で憎まれ役になることも多い専務だけれど、いざ仕事となると有能さを発揮する。
真面目で、ひたむきで、手を抜かない姿勢は尊敬できる。
今回の解決も、専務の手腕に寄るところが大きいともっぱらの噂だ。

それにしても、配送の途中で商品が消えるなんて不思議な話。


「専務、昨日も遅かったみたいね」
朝の準備のため専務室に入った萌さんが呟く。

「そうですね」

散らかった書類。
空になったコーヒーカップ。
きっと遅くまで仕事をしていたんだろう。

最近、家でも専務の姿を見かけない。
夜遅くに帰ってきて、朝は早くに出て行ってしまう。
「体を壊さないといいけれど」と、奥様も心配していた。
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