コイノヨカン
誕生日
夏を迎え、世間は夏休み。
しかし、社会人の私にも高3の希未ちゃんに休みなどなく、
「もー、遊びに行きたい」
机に向かって叫ぶ希未ちゃんを
「はいはい。大学生になってからね」
なだめながら、問題集に向かわせる。
元々週1だった家庭教師はほぼ毎日になり、私は会社と母屋以外で時間を過ごすことがなくなってしまった。
幸いというか何というか、専務は接待ゴルフと出張で週末の休みが取れない日が続いている。
「ホテルって夏がかき入れ時だから忙しいのは仕方ないけれど、せめて兄さんもバースデイ休暇くらい取れないのかしら」
勉強の休憩時間に、希未ちゃんが呟いた。
バースデイ休暇?
「専務の誕生日って、いつ?」
契約とはいえ付き合っていながら、私は専務の誕生日を知らない。
「えっ、来週の土曜日」
そうなんだあ。
言ってくれればプレゼントくらい用意するのに。
それとも、凜さんとお祝いかな?
最近は凜さんからの電話もよく掛かってくるし、夜遅いことも多いから。
「でもね、あまり嬉しくないの」
寂しそうな希未ちゃん。
「どうして?」
「兄さんの誕生日は、父さんの命日だから」
その一言に息が止りそうになった。
「それ、本当?」
「ええ」
専務のお父様は、会長の長男。
いくつもの縁談があったのに、大学時代に知り合った奥様と結婚したと聞いた。
ごくごく普通の家の娘だった奥様との結婚は、周囲から大反対されたらしい。
でも、お父様は奥様と結婚。
専務が生まれ、10歳の時には希未ちゃんも生まれ幸せだったはず。
しかし、お父様は突然の事故で亡くなった。
その日は、専務の11歳の誕生日。
息子のためにバースデーケーキを買って帰るところだった。
「兄の誕生日には、父を思い出してしまうんです。だから、兄の誕生祝いはできなくて」
「そんな・・・」
「何度かお祝いをしようとしたんですよ。でもね、兄が嫌がるんです」
だから、ずっとお祝いをしていないと希未ちゃんが教えてくれた。
「そうなんだ」
なんだか切ない。
胸がキューッと締め付けられるようで、何も言葉が出てこなかった。
しかし、社会人の私にも高3の希未ちゃんに休みなどなく、
「もー、遊びに行きたい」
机に向かって叫ぶ希未ちゃんを
「はいはい。大学生になってからね」
なだめながら、問題集に向かわせる。
元々週1だった家庭教師はほぼ毎日になり、私は会社と母屋以外で時間を過ごすことがなくなってしまった。
幸いというか何というか、専務は接待ゴルフと出張で週末の休みが取れない日が続いている。
「ホテルって夏がかき入れ時だから忙しいのは仕方ないけれど、せめて兄さんもバースデイ休暇くらい取れないのかしら」
勉強の休憩時間に、希未ちゃんが呟いた。
バースデイ休暇?
「専務の誕生日って、いつ?」
契約とはいえ付き合っていながら、私は専務の誕生日を知らない。
「えっ、来週の土曜日」
そうなんだあ。
言ってくれればプレゼントくらい用意するのに。
それとも、凜さんとお祝いかな?
最近は凜さんからの電話もよく掛かってくるし、夜遅いことも多いから。
「でもね、あまり嬉しくないの」
寂しそうな希未ちゃん。
「どうして?」
「兄さんの誕生日は、父さんの命日だから」
その一言に息が止りそうになった。
「それ、本当?」
「ええ」
専務のお父様は、会長の長男。
いくつもの縁談があったのに、大学時代に知り合った奥様と結婚したと聞いた。
ごくごく普通の家の娘だった奥様との結婚は、周囲から大反対されたらしい。
でも、お父様は奥様と結婚。
専務が生まれ、10歳の時には希未ちゃんも生まれ幸せだったはず。
しかし、お父様は突然の事故で亡くなった。
その日は、専務の11歳の誕生日。
息子のためにバースデーケーキを買って帰るところだった。
「兄の誕生日には、父を思い出してしまうんです。だから、兄の誕生祝いはできなくて」
「そんな・・・」
「何度かお祝いをしようとしたんですよ。でもね、兄が嫌がるんです」
だから、ずっとお祝いをしていないと希未ちゃんが教えてくれた。
「そうなんだ」
なんだか切ない。
胸がキューッと締め付けられるようで、何も言葉が出てこなかった。