コイノヨカン
カラン カラン。

「いらっしゃいませ」

渉さん登場。
無言で私達に近づくと、ジーッと怖い顔で睨み付けた。

「お前が呼んだのか?」
大地さんに向けた言葉。

「いいや」

「私が勝手に来たんです。マスターのカクテルが飲みたくなって」

「何で連絡しない?」

「忙しそうだから」

「だからって、1人で夜中に出歩くな」

「まだ9時だよ」
横から口を挟んだ大地さんに、

「お前は黙っていろ」
完全にキレている。

私は一体何をしているんだろう。
渉さんを不機嫌にするためにわざわざ来たわけではない。
どうしても、日付が変わる前に話がしたい。
そう思っただけなのに・・・

「ごめんなさい。帰ります」
いたたまれなくなって、私は席を立った。

「いいじゃない。もう少し飲んで行きなよ」
と、大地さんに引き留められ、

「送って行くよ」
と、渉さんが立ち上がる。

「いいえ、1人で帰ります」

せっかくの誕生日、大地さんとの時間を邪魔する気はない。

「いいから」
渉さんが私の腕に手をかけた。

違う、そうじゃない。
私は渉さんの手を煩わせるために出てきたんじゃない。
でも、結局何もできない。
何の役にも立たない自分自身を痛感して、悲しくなった。

「お願い、離してっ」
私は専務の手をふりほどき、店を駆け出した。
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