コイノヨカン
しかし、
店出て角を曲がったところで捕まった。

「俺から逃げられるなんて思うな」



そのまま駐車場まで連れて行かれ、助手席に乗せられた。

「どうしたい?帰りたいなら送るけれど」

私は首を振った。

「じゃあ、どこか行くか?」

コクン。

「どこでもいいです。渉さんの行きたいところで」

驚いたように私を見る渉さん。

「バカ。女の子の言う台詞じゃないよ」

2人して赤くなってしまった。



1時間ほど車を走らせて、ついたのは海。
車を止めて窓を開けると、潮の香と波の音がする。

「ここは母さんの実家の近くでね。小さい頃よく来たんだ」

「私も夏になると、父さんが海に連れて行ってくれました」

「そうか。俺も小さい頃父さんに連れられて来たけれど、希未は来たことがないと思う。希未が小さい頃に父さんが死んでしまって、母さん1人では来られなかったから」
どこか遠くを見るような目。

私はシートベルトを外し、渉さんの肩に手を乗せた。

「栞奈?」
驚いた声。

「少しだけ、こうしていたいの」

そっと手を回し、私は徹さんを抱きしめた。
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