マシュマロより甘く、チョコレートより苦く
「そういえば、朝倉さん」
と尋ねてきた彼の顔はさっきとは比にならないくらいに真剣で、思わず私は息を呑んだ。
「な、に…?」
「有賀にDV受けてるだろ」
その言葉に、私は目を見開いた。
「違う、DVなんか受けてない…だって、輝羅くんは優しいから」
「-優しいのは、暴力をした後、にだろ?」
私は言葉に詰まる。
それは、-否定できない。
確かに考えてみたら、暴力や暴言を浴びた後には決まって優しかった。
私に対して謝りながら、今までやったことを反省しているー…ように、見えた。
「そういうのが、DVの典型的なパターンだって聞いたことがあって」
「…」
私は目線を落として、自分の手を見つめる。
「…なんで、…なんで、気づいたの?」
私は勇気をだして顔を上げ、彼とはっきり目線を合わせる。
「…俺の近くにいた人が、同じような目に逢っていたから」
修斗くんが告げた答えは、意外なものだった。
「俺はそれに気づくことができなかった。彼女を助けることができなかった。
気づいたときにはもう手遅れで、どうしようもなくて。
俺はそれをすごく後悔してる。
だから、もう二度とこんな目に逢う人がいないようにしようって思ったんだ。
少しでもおかしいと思ったら声をかけるようにしようって思ったんだ。
朝倉さん、ここんとこずっと顔色悪かったからさ。どうせ三岡さんにも言わずに独りで抱え込んでいるんだろうなって」
「…」
図星、だった。
萌映とかお母さんに相談できない理由は、たぶん私が臆病なせいだ。
萌映とお母さんは私のことに気づいていないと思う。
だって彼女たちは私と輝羅くんが仲の良いカップルだと思ってるって知ってるから。
それに、これがDVなんじゃないか。
そう思ったことは何度かあった。でも、違ったら怖かった。だから言えなかった、というのも理由のひとつなのかもしれない。
私はとある言葉を言いかけようとしたが、口を閉じた。
そして、代わりにこう言った。
「…気づいてくれて、ありがとう」
私の言葉に驚いたように目を向けてきた修斗くんだったが、私ににこりと微笑みかけてくれた。