妖守の常木さん~妖守は彼女を独占したい~



視線が交わった数秒がやけに長く感じられた。
僕が女の子を引き寄せ、固まっているうちに久美ちゃんは出ていってしまった。




彼女はぽかんとしていた。




「あれ、今の小野枝さんじゃないか?」



僕の袖を暖簾のようにしてしたから覗く女の子。


「やっぱり探しにきてくれたのか」と、微笑を浮かべる女の子とは反対に僕はガッチガチに固まっていた。




この状況を見た久美ちゃんは僕と鈴木さんの関係に疑問を持ったに違いない。



彼女にしてみれば、女の子の顔を隠すために匿ったなどというものは知らないのだから、ただ単に僕が抱きしめているだけに見えたはずだ。





これは大きな誤解である。と、脳内で言い訳をしても仕方がないのだが、言わせてほしい。



これは違うのだ。




もしなんの疑問も持たれず、久美ちゃんにケロッとされても、それはそれでショックだが……。



ともかく僕が一時期ホストをしていたせいで信用に欠けているというのに、
あまつさえ女の子を抱き寄せるとなると、絶望的に信用ゼロな人物となり果ててしまうのではなかろうか。



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