妖守の常木さん~妖守は彼女を独占したい~



こんな暑い日にも淹れたての湯気がたつお茶を両手で支えているおばあちゃん。




いつもの光景……ではなかった。



おばあちゃんの向かいには着物の男の人がみかんを食べている。





「やあ」




常木さんはこの部屋にしっかり馴染んで私に微笑みかけた。




「おかえり久美ちゃん」



 おばあちゃんも「久美ちゃんおかえり。ちゃっちゃと手洗っておいでえ」といつものセリフを言う。



そして私もはーい、といつもの返事。



常木さんがいるわけないよねえ。

あんまり外が暑いせいで、常木さんの幻覚が見えているのだ。きっとそうだ。



振り返るとやはり笑みをたたえた常木さんがみかんを食べていた。




………って、いやいやいや、幻覚なわけあるか。



我にかえったところで然るべき疑問か浮かぶ。



え、常木さんなんでいるの? 



どおりで今日は神社にいなかったわけだ。



もしかして、と思ってスマホを見ると常木さんから「今日家に行きますね」というメッセージがあった。




私はバチャバチャと手を洗って着替えてからおばあちゃんの部屋に向かう。



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