妖守の常木さん~妖守は彼女を独占したい~
とても可愛らしく正座している彼女を前にしてじっとしている方がおかしい、と声を上げたい。
僕はそんな衝動をかき消すように、次々と彼女の口にみかんを放り込む。
みかんを口に入れる瞬間に僕の指が唇に触れた。
直感的にああ、やばいなと思う。そして、まんまと吸い込まれるように顔を近づけてしまう。
僕はいずれにしてもギリギリの精神状態で彼女と向き合っているのだ。
あと数センチ、鼻先に触れる寸前ではっと我にかえった。……一寸先は先は天国か地獄か。あぶないあぶない、冷や汗が出る。
久美ちゃんは、え、なに?といった不思議な顔をしている。
そのまま何も悟らないでくれ、と願う。
久美ちゃんはこういうことに関してぼーっとしている節があるし、
僕も僕であまり顔に出ないらしいので、いつも心の中で戦いを繰り広げていることは伝わっていないみたいだった。
伝わってしまっていたら、格好がつかない。
それにしてもここまで顔を近づけておきながら無言を貫くのもあれなので、
誤魔化しにデートに誘ってみると、なんとその日はクラスの男と勉強をする約束をしてるという衝撃の事実を知る。
まじか、と愕然とした。
一歩目からへこたれそうな僕だったが、男と二人で勉強となればよからぬことしか起こらないはずで、
なんとしても僕はその勉強会に参加しなければならなかった。
環の弟に久美ちゃんを取られてたまるか、と珍しく僕は男気あふれていた。
男気と言うと聞こえはいいが、ただの独占欲と嫉妬である。
正直、表現の誤差でこんなにも変わるものなのか、と苦笑いせざるを得ない。