警戒心MAXだったのに、御曹司の溺甘愛に陥落しました

前日の会議の議事録をまとめている手を止め、パソコンから横に立つ女性社員に視線を移した。

美山という女性社員は確か私より二つ上の先輩。可愛らしいノースリーブのワンピースに高いヒールのパンプス、オフィスカジュアルというには少し無理がある出で立ち。

「だったら代わって頂けますか?」

そんな可愛らしい格好とは似つかわしくない形相で私を睨む美山さんに、怯まず言い返す。

「私も急に補佐なんて言われて戸惑っている所です。志願するなら私に言わず直接上司に願い出たらいかがですか」

私だってやりたくてやっているわけじゃない。

その正直すぎる本音だけはなんとか心の声に留めた。

それでも反論されたのが悔しかったのか「ちやほやされて調子にのってんじゃないわよ!」と、これもまたオフィスにそぐわないセリフを残して去っていった。


その次の日の夜、天野さんから呼び出しを受けた。

「補佐を美山さんに代わってほしいって頼んだんだって?」

私はげんなりしながら美山さんが端折って伝えたであろう経緯を述べる。

どんな猫なで声で私を貶めながら天野さんに自分の要望を伝えたのか、想像するだけでもため息が出た。

「彼女が自分が代わりにやりたいという旨を私に言ってきたので、直接上司に願い出て希望が通れば代わりますとお伝えしました」

物は言いよう。いちいち悪意ある言い方で絡まれただなんて報告したところで何にもならない。学生時代から何度も経験して悟り、身につけた処世術だ。

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