警戒心MAXだったのに、御曹司の溺甘愛に陥落しました
あっという間と言うべきか、長かったと言うべきか。三週間が経ち、紅林さんは関西支社へ帰っていった。
いくらみんなが知らないとはいえ、こちらに来ていた事情が事情なだけに特に送別会をするわけでもなく、あっさりとした別れだった。
それでも最終日には私のところにも挨拶に来てくれて「誰に遠慮も引け目も感じる必要ないんだからね。頑張って!」と仕事のものなのかそうじゃないのかわからない激励をされた。
今置かれている現状はきっと紅林さんの方が大変なはずなのに、あの日給湯室で陰口を聞いたせいか、ちょっと関わっただけの私を気にしてくれるんだと思うと本当に敵わないと胸が痛んだ。
新店舗の名前は『calando』と『bar』をかけ合わせ『calanbar(カランバル)』とシンプルなものに決まり、そのタイミングで店舗の施工も始まった。
メニューも試作段階に入り、店で使用する食器やカトラリーの選定も順調。
店舗統括部から店長やバーテンダーを務める人員も選出され、光ちゃんが請け負ってくれた研修も滞りなく進んでいた。
一方、翔さんとの関係は一向に変わっていない。横浜に二人で出掛けて以来、休日に会ったりもしていない。
もちろんワンピースに袖を通すことはなく、タグも切らずにクローゼットに掛けられたまま。
忙しくてそんな話をする暇がないのも事実だが、意識的にふたりきりになるのを避けてしまっているという自覚はある。
翔さんへの気持ちはもう疑いようもない。
それでも未だにモヤモヤとしているのは、自分に自信がないから。
あの人の隣に立つ自信も、あの人に想われているという自信もない。