警戒心MAXだったのに、御曹司の溺甘愛に陥落しました
きっと光ちゃんは『Karin』で働くことに拘りがあるんだろう。
詳しく聞いたことはないけど、マスターとも縁が深そうだった。
「イケメンバーテンダー。集客の目玉になると思ったのに」
「キヨ、光ちゃんは客寄せパンダじゃないよ」
「それ! 光ちゃん呼び! 社内でも研修で阿久津さんが来るたびに女子社員がキャーキャー言ってたじゃん。イケメン嫌いのハッチーはどこ行ったわけ?」
キヨは最近の私の変化を嬉しそうにしながらも、やはり理由が気になっていたのか横から興味津津に聞いてきた。
向かいに座り何杯目かのビールを飲んでいる翔さんはチラリとこちらを見るも何も言わない。
「俺も気になるな。最近蜂谷さんよく笑うようになったし、以前に増して可愛くなったって会社のどこにいても噂聞くよ」
「松本さんまで。大袈裟です」
「で? イケメン克服は阿久津さんが関わってんの? バーの提案したのは阿久津さんのおかげとか?」
お酒のせいかグイグイ絡んでくるキヨに苦笑していると、店員に空のジョッキを上げておかわりを注文していた翔さんが口を挟んだ。
「そういやコースターのデザイン見たか?」
「見ました! オシャレで可愛かったですね。安っぽく見えないように素材も拘ってあって」
「まぁバーカウンターだけで使うなら多少見栄えするもんがいいよな」
話題が逸れたことに安心する。わざと違う話を振ってくれたんだろうか。
「店オリジナルのコースターもハッチーの案だって?」
「案っていうか、せっかくバーカウンターならコースターがあってもいいかなって思っただけで」
「ハッチーの提案のおかげで『calanbar』が出来上がったんだもんなぁ」
「ちょ、やめてよ。私はただのアシスタント」
「またまた謙遜してー」
相変わらずお酒に弱いくせにピッチの早いキヨは早々に酔っ払い始めていた。