警戒心MAXだったのに、御曹司の溺甘愛に陥落しました

姿が見えなくなったのを確認してから、強張った身体から力を抜きふーっと大きく息を吐き出した。

「なになに、天野さんとハッチーっていつの間にそういう感じになったの?」

エキゾチックな顔立ちで穏やかな立ち居振る舞いの松本さんは、お酒が入ると少しフレンドリーさが増す。

そんなところも世の女性達にとったら魅力的に映るのだろうが、私は密かに『キヨ化』と呼んでいる。

元来陽気でお酒を飲むとさらに明るくなるキヨにつられるように、にこやかに距離感が近くなるのだ。

普段は蜂谷さんと呼ぶ彼が私をハッチーと呼び出したらそのサイン。キヨ化した松本さんが可笑しそうに話す。

「天野さん、あれ絶対相田に嫉妬して牽制したんだろ」
「あの目本気っすね。ハッチー、いつの間に? 話聞かせろってこの前言ったじゃん」

紅林さんと四人でランチに出た時の帰りの話をしているんだろう。お世話になったキヨには悪いけど、その時のことはあまり思い出したくない。

「私、ちょっとお手洗い」

話して聞かせるほどハッキリとした関係ではないし、そっち方面の話題は経験がなさすぎてうまく躱せない。

明らかに逃げたとわかるだろうけど、ついでに化粧直しもしようとカバンを持って席を立った。


店の奥にある化粧室に向かう。

その手前には私の背丈ほどの観葉植物の鉢植えに挟まれた小さなベンチ。

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