警戒心MAXだったのに、御曹司の溺甘愛に陥落しました

そこに腰掛けて電話をしている翔さんの姿があった。

「……いがヤバい。ほんと厄介」

仕事の連絡なのかと思ってたけど、砕けた話し方からどうやらプライベートらしい。

翔さんの目の前を通り過ぎて化粧室へ向かおうと足を踏み出した瞬間。

「あぁ、好きだよ」


――――え?

ドクンと鼓動が嫌な音を立てる。

優しげな表情。口角を上げて照れたような微笑みでそう呟いた翔さんの声。

聞いてはいけない。早く離れないと。

すぐにここを立ち去ればいいとわかっているのに、なぜか私の足は動かずに翔さんの次の言葉を待っている。

電話の相手が誰なのか。きっと想像とは違っていないと思うなら、早く離れたほうがいいはずなのに。

どうして自分を苦しめる選択をするのか、わからないのに動けない。

そして再び翔さんの声が私の耳に届く。

「不倫なんかさせるか。美樹がどんだけ泣いたか知ったっつーのに。俺は絶対泣かさない」


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