警戒心MAXだったのに、御曹司の溺甘愛に陥落しました
【少しだけ話せる?】
そうメッセージが入り、飲んでいた席を外す。
ざわざわした居酒屋内で電話をするのは若干聞き取り辛くはありそうだが、寒空の下に出ていくのも嫌でトイレの手前にあったベンチに腰を下ろした。
スマホをタップし、美樹に電話をかける。
『あ、お疲れ。平気だった?』
「あぁ。なに?」
『あのね、仕事辞めることにしたから』
驚き半分、やっぱりという納得が半分。
しかし彼女が話したのは、俺が思っていた後ろ向きな展開ではなかった。
まだ常務会と経営企画室にしか知られていない情報だが、海外に出店しようという計画が持ち上がっている。
どうやらその海外事業部の立ち上げを、関西支社をまとめあげた実績のある小田部長に任せようという話が内々にあったらしい。
美樹は小田部長について海外へ行くため、会社を辞めることにしたという。
『奥様との離婚は成立したけど、さすがに一緒に海外事業部で転勤なんて恥知らずなこと出来ないから。すっぱり辞めて今から英語猛勉強して向こうでもバリバリ働くわ』
「そっか」
『うん。話聞いてもらってたし、それだけ報告しときたくて』
美樹ほど仕事を好きで楽しそうにしている人を知らない。その姿に新人の俺はたくさんのことを学んだ。
そんな彼女が仕事を辞めるという。もったいないと思わないわけではないが、美樹には美樹の人生がある。