警戒心MAXだったのに、御曹司の溺甘愛に陥落しました

きっともう会うことはない彼女に別れを告げ電話を切った。

入社以来憧れていた人で、その後は同志として切磋琢磨してきた人が会社を去る。

若干の寂しさは感じるものの、彼女なら海外に行ってもどんな仕事でも楽しんで実力を発揮するだろう。

関西支社へ彼女を送り出したときもこんな気持ちだった気がすると少しだけ過去に思いを馳せてから、スマホをポケットに仕舞い立ち上がった。


席に戻ると蜂谷の姿がなかった。

「トイレって言ってたんだけど、すれ違いませんでした?」

酒が回って真っ赤な顔をしている相田に聞かれる。

電話している時に座っていたベンチはトイレの手前で、誰も前を通りかからなかった。

もう一度席を立ち店内をぐるりと見渡してみるが蜂谷らしき姿は見えない。

なんとなく嫌な予感がして、スマホを取り出し電話をかける。

「出ます?」
「……いや」

コール音が響くだけで応答はない。

彼女が座っていた席を見るとカバンはないもののコートは椅子に掛けられたまま。

トイレに行くと言いながら帰った? なぜ?

以前飲みすぎて寝落ちしたことをからかいはしたものの、今さらそれくらいで怒って帰ってしまう奴でもない。

もし何かあったのだとしたら、今なら追いつけるかもしれない。

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