警戒心MAXだったのに、御曹司の溺甘愛に陥落しました

財布を出し一万円札をテーブルに置いて蜂谷のコートを手に取ると、まだ飲んでいる二人に先に帰ると告げる。

「企画部のなんでも屋さんがついに天野さんのものになるのかー」
「ハッチーのイケメン嫌いも完全に卒業っすね」
「おい! そもそもあいつは“俺専属”のなんでも屋だからな」
「うわ、なにそれエッロ」
「ああー会社のアイドルがー」

相田はともかく松本まで強かに酔ってケタケタ笑っている。

聞き逃がせない単語があったものの今はこいつらに構っている時間はない。

聞いてるのか聞いていないのかわからない二人に適当な時間に帰るように言いおいて居酒屋を出た。

とりあえずは駅に向かう大通りに出ながらもう一度電話を掛けてみる。

それでも蜂谷は出ない。前にもこんな風に何度も電話を掛けたことがあったのを思い出した。

あれは確か美樹がこっちに戻ってきた初日。

一緒にランチを食べに出た先で様子がおかしかった蜂谷は、俺とは視線も合わせずに相田とともに二人で先に会社へ戻った。

その後もなぜか俺ではなく課長に許可を取り勝手に定時で帰った蜂谷に腹が立ち、どういうつもりか聞こうとして彼女の連絡先を知らないことに気が付いた。

イラつきながらも相田に聞くと蜂谷の番号を知っていたので教えてもらい、電話をしたが結局繋がることはなかった。

あれは一体なんだったのか。

その後は競合の出店やバーカウンターへの変更などバタバタして忘れてしまっていた。

そんなことを思い出していると、遠くから「離してください!」とよく知る声が聞こえてきた。

幹線道路を挟んだ反対側の歩道。男性に肩を掴まれた女性が大きく抵抗している様子が見える。

その女性が蜂谷だと認識した瞬間、俺は脇目も振らずに走り出した。




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