警戒心MAXだったのに、御曹司の溺甘愛に陥落しました
「しつこい! 離してください」
「泣いてる子置いていけないしさぁ。ね? 一緒に飲み直そう?」
落ち込んでいる時に限ってこういう輩に遭遇する。金曜日だし楽しく飲んでくれるのは勝手だが絡まれるのはごめんだ。
いくら失恋したからってこんな酔っ払ってナンパしてくる男の人についていくほどバカじゃない。
「なんか落ち込んでたんでしょ? どうしたの、仕事? 僕だったら叱らずに褒めて育ててあげるのに」
『褒めて育ててあげる』というナンパ男の言葉に、屋上のキスが蘇り胸が締め付けられる。
今さっき翔さんの気持ちは自分にはないとトドメを刺されたばかりなのに、まだ性懲りも無く思い出してはドキドキしている自分が滑稽で嫌になる。
いつの間にか涙も止まり、乾いた笑いが漏れた。
ナンパ男は見当違いなことを言って勝手に肩を抱く手に力を込めてくる。
酔っぱらい相手にいくら言っても仕方ない。ヒールで思いっきり足でも踏んで逃げてしまおうかと考えていると、私に触れていた手がぐいっと引き離された。
「こいつに触るな」
低く唸るような声に鼓動が跳ね、驚き振り返る。
ナンパ男の腕を捻り上げるように掴んでいたのは、先程まで居酒屋で電話をしていたはずの翔さんだった。
眉間に深く皺を刻み、見たことのない怖い顔で相手の男を睨みつけている。
辛くて顔を見ていたくなくて逃げてきたというのに、なぜ今彼がここにいるのか。