警戒心MAXだったのに、御曹司の溺甘愛に陥落しました
私は今、ハサミを手にクローゼットの前に立っている。
翔さんと気持ちが通じて一ヶ月。ふたりでランチに出たり、週末の休みは一緒に過ごすことに少し慣れてきた時にその爆弾は落とされた。
「どうしよう。着て、行くべきだよね……」
目の前には以前デートで買ってもらった薄いパープルのニットワンピース。
未だにタグも切らずにいたのをようやくクローゼットの奥から引っ張り出してきた。
土曜の午前十時前。朝からもう三十分もこうして悩んでいるのにはわけがある。
来週の月曜日に情報解禁となり、カランドコーポレーションから新スタイルの店舗『calanbar』が三月にオープンすると年明けには各媒体で大々的に宣伝される。
そのためしばらくは休日も返上で忙しくなると予想される翔さんは、例の“覚悟”を私に強いてきた。
それは何度目かのデートで夕食をご馳走になったときのこと。いつも通り翔さんが会計をして店を出た。
『いつもすみません』
『だから、謝らずにありがとうだけ言っとけって』
このやりとりも何度しただろう。翔さんといて私は財布を出したことがない。慣れずに食い下がる私の髪をくしゃくしゃに撫で回した。
『もう。ありがとうございます』
『可愛くねぇ顔だな』
『生まれつきです。だって毎回毎回』
『ははっ! そこそこ稼いでるって言ったろ? 年だっていくつ違うと思ってんだ』
よくわからないけど最後には不貞腐れた顔をした翔さん。
それでもあまり納得できなくて返事をしないでいると、目の前の男はニヤッといやらしい笑い方をした。