警戒心MAXだったのに、御曹司の溺甘愛に陥落しました
『じゃあいい加減そろそろ着てこいよ』
さすがに何のことだろうととは思わなかった。ずっと袖を通さずにいるワンピースの話だとすぐに理解した。
『……自分から言います?私の覚悟が出来たらって言ってませんでした?』
『待たせるあすかが悪い。お前待ってたらいつまで経ってもタンスの肥やしだろ』
『奢ってもらうのとソレを引き換えにするのってなんか』
『バカ、真剣に取るなよ。口実だろ』
そんな会話をしたのが先週。それでもその週末は覚悟が出来ずにワンピースを着ることはなかった。
土曜日も日曜日も車で連れ出してくれたけど、結局あのワンピース姿じゃなかった私を見て、翔さんがどう思ったのかはわからない。
あんなことを言っておきながら一応ちゃんと大人な翔さんはがっかりした顔を見せることもない。それにどこかホッとしつつ、申し訳ないとは思っている。
もうあと一時間もしないで翔さんはここに迎えに来てしまう。
私は意を決して手に持ったハサミで小さなタグを切ると、ずっしりと重たく感じるワンピースに袖を通した。
「お待たせしました」
いつも通りマンション前で待っているシルバーの車の助手席に乗り込む。
十二月中旬、雪こそ降っていないがかなり寒い。車の中の暖かさにほっとしつつ、いつものようにコートの前ボタンを外そうとして慌ててその手を止めた。
「昼飯、リクエストある?」
「えっと、翔さんは?」
「あすかに聞いてんの」