警戒心MAXだったのに、御曹司の溺甘愛に陥落しました
意地悪で横柄だと思っていた翔さんだけど、こうして小さいことでも私の意見を聞いてくれる。
初対面の時からは考えられない優しさを発揮されて、いつまで経ってもドキドキして二人きりの空間に慣れない。
「温かいスープパスタが食べたい、です」
「ん、了解」
ちらりと私に視線を走らせながら車を発進させた翔さんは、オフホワイトのシャツに紺のニット、ボトムは黒のスキニーパンツを合わせていて今日もオシャレ。ライトグレーのステンカラーコートと差し色の赤チェックのマフラーが後部座席に放られている。
私はいつものショート丈のダッフルコートではなく、襟元に大きなファーのついたロングコートを着てきた。
前をしっかりしめてベルトを締めるドレスタイプのコートは、中に何を着ているのかは一見してわからないはず。
車内は暖かくてコートを脱いでもいいんだけど、中に着込んだワンピースを見られるのが恥ずかしくてたまらない。
連れられて来たのは巨大な複合施設『Le favori TOKYO(ルファヴォリ東京)』。
高層オフィスビルやホテル、病院、映画館やボーリング場などのアミューズメント施設も集まっていて、ショッピングモールも併設されている。
案内されたイタリアンレストランは四十六階。窓から見える景色は都心とは思えないほど緑も多く、行き交う電車や車はおもちゃのように小さく感じる。きっと日が落ちた後は夜景が綺麗に違いない。
翔さんがコートとマフラーをクロークに預けているのを見て、私もためらいがちにコートのボタンに手をかける。
もたもたしているのを鞄が邪魔だと思ったのか「慌てなくていいから」と笑いながら持ってくれた。
ロングコートを脱ぎクロークに預けると、横から翔さんの視線が刺さって身の置きどころがないほど恥ずかしい。
別のスタッフが「お席にご案内します」と声を掛けてくれたのをきっかけにやっと翔さんの熱い眼差しから解放されたと思ったのも束の間、席につきメニューを置いたスタッフが去った後もじっと無言で私を見つめてくる。