警戒心MAXだったのに、御曹司の溺甘愛に陥落しました

ハタチになった時に母と一緒に飲みに来て以来、私はたまにひとりでこの店を訪れている。

「何かイライラが吹き飛ぶような美味しいやつ」

土曜日の夕方五時。開店したばかりの店内には私以外にお客さんはいない。

とんでもなく雑な注文に笑いながら、光ちゃんは少しだけ考えてバックバーからいくつかボトルを取り出した。

「何があったの?」

テキーラ、ホワイトキュラソー、レモンジュースと氷を入れてミキサーでブレンドしながら聞いてくれる優しい声。

私は促されるままに最近の職場で起きたことを順番に話していく。

「はい。フローズンマルガリータ」
「かわいい。雲みたい」
「カクテル言葉は『元気を出して』」

挿されたストローで飲むと、冷たさでテキーラのキツさが緩和されてアイスみたいで美味しい。ささくれ立った心が少しずつ癒やされていく。

「ありがとう、元気出た」
「そうやって会社でも笑ったらいいと思うんだけどな」

小さい頃から一緒にいたので私が過去にどんな目にあい今の無愛想スタイルに落ち着いているのかを知っている。

光ちゃんは私が笑顔を向けると苦笑いしながら毎回そう言ってくれる。

サラサラの黒髪、少し垂れ気味な目にスッと通った鼻筋。薄くて形の良い唇。中学から大学までバスケをしていた彼は百八十五センチとかなり長身。

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