警戒心MAXだったのに、御曹司の溺甘愛に陥落しました

* * *

『calanbar』は当初の予定通り三月にオープンしたが、私はそれを待たず月末に株主総会を控え準備に忙殺されていた総務部に戻った。

新年度を迎えたが未だに新入社員の入ってこない庶務課で今日も働いている。

新店舗は予想以上に盛況なようで、オープンしてからこの二ヶ月の売上は予測していた一、三倍の数字を叩き出した。

懸念していた同区画の『favoris de l’ange』との客の取り合いも、バーを設置したことで客層がより明確に分かれ、昼の集客に影響がなかったことが功を奏した。

さらに給仕するスタッフとは別にバーテンダーを置いたのも大いに話題を呼んだ。

光ちゃん直伝のさりげなく気の利いた接客がどこまで活かせているのかはわからないけど、かなり反響は良さそう。

『calanbar』が順調だという話は庶務課にも届いている。その証拠に先月解散したプロジェクトチームがそのまま新事業部として立ち上がった。

きっと遠くない未来、『calanbar』の二号店、三号店を作っていくんだろう。

その新事業部の責任者を任された翔さんが、なぜか今総務部に来ている。平野さんはニヤニヤしてこちらを見ていて居心地が悪いったらない。

二月に庶務課に戻った私の雰囲気の違いに気付いた平野さんはじめ総務のお姉さま達には、早々に事の次第を吐かされてしまった。

『関わりたくないって言ってたあすかちゃんが企画のメンバーと飲んでたって噂で聞いたの。心配してたけど、余計なお世話だったみたいね』

イケメンに関わりたくないと豪語して、庶務課のメンバー以外には愛想笑いすらしなかった以前の私。

企画部に嫌々助っ人に行った私をずっと心配してくれていた平野さんにそう言われ、心境の変化で周りの声を気にせずに自分らしくいようと思ったことをかいつまんで話すはずが。

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