警戒心MAXだったのに、御曹司の溺甘愛に陥落しました

「蜂谷、悪いが新事業部に行ってくれ」
「……はい?」

いつだったかもこんな風に呼び出されて似たようなことを言われた。

違うのは、助っ人と付かないこと。行く先が企画部ではなく新事業部だということ。

そして隣になぜかニヤリと意地悪に笑う上司がいること…。


* * *

「いつから知ってたんですか」

新事業部に異動になるだなんて寝耳に水。

総務部の隣の給湯室で木製の持ち手の黒いマグカップにお湯を注ぎながら翔さんに問い詰める。

「さぁな」

淹れたてのコーヒーをその場で飲みながら可笑しそうに笑う。

悔しくてその顔を睨むと、カップを持ったのと反対の手がゆっくりと私の頭に伸びてくる。

「天野さん、仕事中です」

触れられまいと一歩引いた私に、少し不機嫌そうな顔をする翔さん。

「このくらい普通だろ」

以前は意識しなかったことも、いざ付き合うようになればきちんと一線を引かないと公私の区別がつかなくなってしまう。

社内では知らない人はいないだろうという翔さんはとにかく目立つ。

どこで誰に見られているかわからない。

くだらない中傷を気にしないようにしたとはいえ、自らそのネタを与えるようなマネはしたくない。

< 156 / 161 >

この作品をシェア

pagetop