警戒心MAXだったのに、御曹司の溺甘愛に陥落しました

「俺の所に欲しいって前々から頼んでたんだけど、あの狸オヤジはお前を買ってるみたいでのらりくらりと躱されるし。松本や相田達には早く連れてこいってせっつかれるし。酔い潰れたお前を迎えに行けば庶務や人事のやつらに『あすかちゃん泣かせたら承知しない』って睨まれるし」
「そ、その節は大変ご迷惑を……」

狸オヤジとは総務部長のことなのか。前半はともかく最後のひとつは大いに身に覚えがあったので素直に謝っておく。

でもそれだって次の日には散々叱られて、なんならお仕置きと称して翔さんだって好き勝手したはずなのに。

そんな事を思い出したせいで顔を赤くさせてしまった私を目ざとく見つけ、口の端を上げる翔さん。慌てて下を向いても時既に遅し。

「あすか?」

長身を屈めてわざと耳元で私の名前を呼ぶ甘い声。

否が応でも先程思い出してしまったあの日の情事に意識が戻ってしまい、湿度の高い吐息を漏らしてしまった。

その反応に満足した翔さんがクスリと笑う。反撃したところで返り討ちに遭うのは目に見えていたので、睨みながら耳を抑えて一歩引くだけに留めた。

「粘り勝ちで部長から異動の許可を貰えたのが今。だから言えなかった。悪いな」
「いえ、大丈夫です。ごめんなさい」

恋人になったからといって、何でも話せるかと言えばそうではない。

彼は責任ある立場で私にとっては上司。経営企画室にも出入りし、守秘義務のある情報も持っている。

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