警戒心MAXだったのに、御曹司の溺甘愛に陥落しました
仕事のことでは特に私に話せないことだってあるだろう。それはもちろん理解している。
「……秘書か。悪くないな」
「え?」
「さっき部長が言ってたろ。俺が上にいったらお前が秘書。名実ともに俺専属のなんでも屋に出来る。持ってる情報も全部共有出来るし、他のやつらに邪魔されないし良いことづくしだ」
突拍子もない話なのに、彼が言えば実現してしまいそうなのが凄い。
きっとこの新しい事業部でもどんどん成果を上げて出世街道まっしぐらなエリート上司を見上げる。
いつか来るそんな未来のために秘書検定でも受けておけばいいのかななんて考えてしまうあたり、私も彼に多分に影響されているんだろう。
「まぁ今は『calanbar』を大きくすることが目下目標だ。また一緒に働こう」
「はい!」
「やっとアシスタントを引き抜けた。俺いい仕事したわ」
「ふふっ、お疲れ様です」
引き抜きだなんて大袈裟だけど、そう言ってもらうと必要とされているみたいで嬉しい。
すると翔さんは持っていたマグカップを置き、ゆっくりと一歩近付いてきた。
「褒めてくれる?」
「え?」
既視感のあるやりとり。
翔さんも笑いながら私の頬に手を伸ばしてくる。
今度は私もそれを避けなかった。
「狸オヤジ相手に優秀な部下を引き抜いた俺のこと。褒めてくれる?」
「すごいすごーい」
「おい」
「ふふ、嘘です」
抑揚のない棒読みの私のセリフに不貞腐れた顔の翔さんが可笑しくて思わず笑ってしまう。
給湯室の入り口を振り返って誰もいないことを確認してから、思いっきり背伸びしてほんの一瞬唇を重ねた。
「帰ったら、たくさん褒めてあげますね」
end