警戒心MAXだったのに、御曹司の溺甘愛に陥落しました
「逆ハーレム気分?」
「ハーレムって!」
片手にビールジョッキを持った天野さんに、くいっと顎を持ち上げられ瞳を覗き込まれる。
顔が近い。ニヤッと意地悪く笑っていて、からかわれているのがわかる。
もう二ヶ月も一緒に働いて、いまだに何が楽しいのかこうしてからかってくる。
他の人には優しく笑うくせに、私に見せるのはこんな意地悪な顔ばかり。
ついムキになった私は顎に掛かる天野さんの手をぺしっと払って言い放ってしまった。
「冗談じゃないですよ。大体なんでこんな会社近くのお店なんですか」
「何か問題?」
「会社の人にこのメンツで飲んでるの見られたくないんです」
「なんで?」
「なんでって……」
仮にも上司に言うようなことじゃないと、私は口をつぐんだ。
残ったカシスオレンジを飲み干すと、後ろを通った店員さんにスクリュードライバーとビールを三つ注文した。
学生時代から、周りの女子からやっかまれることが多かった。
くっきり二重まぶたに黒目がちな大きな瞳、長いまつげ。百五十三センチという小柄な身長に、どれだけ食べても太らない華奢な身体。色素が薄く、染めなくても陽に透ける柔らかく細い茶髪。
中学に上がった頃から告白されることが増え、私は自分が比較的恵まれた容姿をしていることを知った。