警戒心MAXだったのに、御曹司の溺甘愛に陥落しました

もちろん邪な理由だけではなく、仕事がきっちり出来る部分も評価している。

頼んだ書類や資料は的確だし、指示を待たずに自分で考えて動きサポートする力も持っている。

こいつは鍛えれば使える。

今まで庶務課のすみっこにいたのが信じられない程、頭の回転が早い。総務部長が彼女を貸してくれたのはこういうわけかとひとり納得する。

そうしてそばに置けば置く程、俺は蜂谷に惹かれていくことになる。



* * *

「『favoris de l’ange(ファヴォリ ド ランジュ)』が同じ区画に出店?!」

その情報が入ったのは常務会にプレゼンを終え承認が下りた一週間後。

急いで対策を練るためにプロジェクトメンバーに会議室へ来るよう指示を出した。

『favoris de l’ange』はフランス語で『天使のお気に入り』

その名の通り可愛らしい内装、写真映えのするメニューで今SNSを通じ爆発的な人気を誇っているカフェだ。

現在都内に二店舗あり、どちらも若者の街を代表する駅の近くのショッピングビル内に入っている。

創業から二年も経っていないのにもう三店舗目。驚きもあるが新興企業とはそういうものなのかもしれない。

とはいえ同じ区画に、今爆発的に人気のカフェが同時期にオープンというのは頂けない。

うちがあの物件を手に入れたのは三ヶ月も前だ。あちらは市場調査をせずに立地を決めたんだろう。

「マーケティング費を浮かせるため、競合の店舗が出すならいけるだろうと市場調査をしない新興企業も多いらしい」
「そんなんありっすか」

メンバーが集まるまでに会議室の準備をしながら俺の話を聞いていた相田が項垂れた。

松本は厨房機器の打ち合わせに出ており、社内にいない。

「庶務行って蜂谷連れてくるわ」
「え、ハッチー?」
「あいつに議事録頼みたい」
「でも朝もう挨拶も済んで……」
「あいつは『俺専属のなんでも屋』だ」

そう言い切った俺に少し驚いた顔をした相田だが、嬉しそうに頷くのを見てから会議室を出た。


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