警戒心MAXだったのに、御曹司の溺甘愛に陥落しました
『翔って呼んでみて』
抱きしめられた腕の強さ。胸の中の温かさ。煙草のにおい。
思い出すだけで首筋にぞくっと鳥肌が立つ。
それが嫌な感覚かどうかもわからない。
『……可愛くねぇな』
そう言われて逃げた金曜の夜はどうしてだか眠れなかった。
承認が下りて企画が本格的に始動し、忙しくなるであろう天野さんやキヨ達とは社内で顔を合わせることすらないはず。
こうやって、きっと忘れていく。
初対面の最悪な印象も。散々からかわれてイライラしたことも。屋上でキスされたことも。
全部、忘れられる。今なら……。
「だから夜のメニューに力を入れたいと思う」
月曜の朝には天野さんやキヨなど企画部のメンバーには挨拶を済ませて、久しぶりに庶務課にある自分のデスクに出勤したというのに。
なぜか二時間後の午前十時半。私はまたプロジェクトチームのみなさんと一緒に第三会議室にいた。