警戒心MAXだったのに、御曹司の溺甘愛に陥落しました
声を掛けてくるひとりひとりに挨拶を返す紅林さんは、美人なのに気取った感じもなく周りには笑顔が絶えない。
天野さんみたいな人だと思った。
「おや? 見ない顔だー」
急に声を掛けられてドキっとする。
間近で見ると美人オーラに圧倒されてしまいそう。
「あ、はじめまして。蜂谷です」
「今年の新卒? アイドルみたいに可愛い子ね」
「え? いや、ちが…」
「こいつはもう三年目ですよ。庶務課の子」
戸惑っていると笑いを堪えた天野さんが言葉を挟む。
「え? どういうこと?」
「俺の補佐が欲しくて、総務から借りてきたんです」
「…へぇ、翔が?」
「何ですか、その顔」
「いや、いっちょ前に後輩を育ててんだなぁって」
「俺だって成長してますよ」
何気ない会話に胸が軋む。
仕事に熱がなかった私でさえ憧れるほど仕事が出来る天野さんに、こんな物言いを出来る女性がいるなんて。
しかも……翔って。名前で呼ぶほど仲がいいんだ。
「改めて、紅林です。翔はちゃんと仕事やってる?」
「ちょっと…職場でその呼び方やめてくださいよ」
「あぁごめんつい。天野君に苛められてない?」
「だから、なんでそんな質問なんだよ」
抗議する少し砕けた口調も周りの反応も楽しそうで居心地が悪い。
懐かしいやりとりに微笑む周囲とは裏腹に、私の気分はどんどん下降していく。