警戒心MAXだったのに、御曹司の溺甘愛に陥落しました
「……会議室、準備してきますね」
「え? あ、あぁ」
思った以上に冷ややかな声が出てしまった。少し驚いた表情の紅林さんと、怪訝な顔の天野さん。
和やかな雰囲気を壊した自覚はあるからこそ、早くこの場を離れたい。
焦った私は紅林さんに向けて小さく会釈をすると、会議で使うノートパソコンといつくかの資料が入ったファイルを手に持ち、天野さんの窺うような視線から逃げ去った。
* * *
なぜだかこんなにもイライラする。
頼まれた仕事も一向に捗らない。午前中は全く集中できずに昼休憩になった。
「ハッチー、昼飯行こうよ」
キヨが声を掛けてくれるけど、そんな気分じゃない。
企画部に助っ人に来て以来何度も誘ってもらって申し訳ないけど、いくら同期でも社内で人気者のキヨと二人で一緒にランチだなんて絶対無理。
周りに何を言われるかわかったもんじゃない。
それに、この休憩中になんとかこのイライラを収めたい。
「あ、ごめんキヨ、私」
「蜂谷さんは何が好き?」
「……え」
「お昼、何食べたい?」
何度目かの断りを伝えようとした会話に割って入ってきたのは紅林さんだった。
その後ろには天野さんもいる。